ヒトの細胞内における宿主-トキソプラズマ間相互作用の解明
背景と目的
トキソプラズマは、ネコの生息する地域であればどこにでも存在することができる、私たちの身近に存在する寄生虫です。健常者が感染した場合の多くは不顕性感染しますが、免疫が低下すると活性化して、トキソプラズマ脳炎などの重篤な脳機能障害を伴う難治性寄生虫疾患を引き起こします。また、妊婦が初感染した場合、経胎盤感染によって胎児に感染し、胎内死亡や流産に加え、水頭症、脈絡網膜炎などの先天性トキソプラズマ症を引き起こします。さらに近年、これまでは無症状と考えられていた健常者への感染も、精神疾患など様々な疾病の潜在的原因であることが明らかになってきました。しかしながら、未だに根治薬の開発には至っておらず、一度感染されると生涯体内に残存し続けるのが現状であるため、既に世界人口の3割程度はトキソプラズマに感染しており、トキソプラズマ症の発症リスクを抱えているとも言われています。
そこで私たちは、トキソプラズマがヒトの細胞内に感染する際に起こる、宿主による免疫応答と寄生虫による寄生戦略を解明することで、トキソプラズマ症に対する新規の予防・治療技術開発を目指しています。
代表的な研究成果
① Bando H, et al., “Depletion of intracellular glutamine pools triggers Toxoplasma gondii stage conversion in human glutamatergic neurons.” Front. Cell. Infect. Microbiol. 11:788003. 2022
論文のURL:
https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fcimb.2021.788303/full
本研究では、ヒトの脳神経細胞内にトキソプラズマが潜伏感染するメカニズムを解明しました。
② Bando H, et al., “Toxoplasma Effector GRA15-Dependent Suppression of IFN-gamma-Induced Antiparasitic Response in Human Neurons.” Front. Cell. Infect. Microbiol. 10:3389. 2019
論文のURL:
https://doi.org/10.3389/fcimb.2019.00140
本研究では、トキソプラズマの病原性因子GRA15が、ヒトの神経細胞への感染に重要であることを解明しました。
③ Bando H, et al., “Inducible Nitric Oxide Synthase Is a Key Host Factor for Toxoplasma GRA15-Dependent Disruption of the Gamma Interferon-Induced Antiparasitic Human Response.” MBio. 9:5. 2018
論文のURL:
https://doi.org/10.1128/mBio.01738-18
本研究では、トキソプラズマの病原性因子GRA15は、ヒトの細胞内におけるIDO1依存的に免疫応答を抑制する機能を持つことを発見しました。詳細な研究内容は以下のページをご覧ください。
大阪大学HP:
https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2018/20181009_1
④ Bando H et al., “Toxoplasma Effector TgIST Targets Host IDO1 to Antagonize the IFN-gamma-Induced Anti-parasitic Response in Human Cells.” Front Immunol. 9:2073. 2018
論文のURL:
https://doi.org/10.3389/fimmu.2018.02073
本研究では、ヒトの細胞内におけるIFN-γ依存的な抗トキソプラズマ応答には、トリプトファン分解酵素の一種であるIDO1が重要であることを明らかにしました。詳細な研究内容は以下のページをご覧ください。
大阪大学HP:
https://immpara.biken.osaka-u.ac.jp/research/research_10